【モデル4. オークション(Auction)】
誰もが知るとおり、オークションとは、顧客が自らの望む購入価格を提示し、最も高い価格をつけた顧客が商品を購入できるという値付けシステムです。
これを改めてビジネスモデルとして分析してみると、まず顧客視点では、自分が支払ってもよいと思う金額以上を支払う必要はないというメリットがあります。販売元からすれば、製品が市場原理によって効率的に配分されるという利点があります。オークションのメリットが特に活きるのは、希少な製品や特殊な製品で、標準価格といえるものが存在せず、また市場での需要も事前に把握しきれないようなケースです。
マジック・トライアングルに当てはめると、先述の顧客側の利点は「何を売るのか(What?)」の変革に該当し、販売側の利点は「なぜ儲かるのか(Why?)」の変革に該当します。また、一般的には、顧客が提示する価格は完全に自由につけられるわけではなく、販売元が最低価格を設定していることが多いのですが、この点も「なぜ儲かるのか(Why?)」を変革するアイデアといえます。
《このモデルの歴史と活用事例》
オークションは古代から存在したビジネスモデルです。近代においては、18世紀にロンドンのサミュエル・ベイカーがサザビーズを設立したことで、オークションハウスという業態が一般的なものになりました。
オークションというビジネスモデルに大きな革命が起こったのは、言わずもがな、インターネット時代に入ってからのことです。ネットオークションの登場により、それ以前とは比べ物にならない人数が、場所や時間の制約なしにオークションに参加できるようになりました。この分野の先駆者となったのは、1995年に設立された米国のイーベイ(eBay)社です。
ネットオークションの普及に伴い、そこから派生して様々なビジネスモデルが生まれました。例えば、米国のワインビッド社は、個人からプロのディーラーまで誰もが参加できるワイン専門のオークションサイトを運営して成功を収めています。
別の例では、「リバースオークション」と呼ばれるモデルも有名です。これは、顧客が商品に入札するのではなく、顧客のほうが希望する条件をサイト上に提示し、業者がそれに対して入札するという形式です。ガスマンらが挙げている成功例には、旅行関係のサービスを取り扱う米国のプライスライン社や、内装や修理などの職人サービスを扱うドイツのマイハンマー社があります。いずれも、顧客が依頼したい内容と希望価格をサイト上で提示し、その希望に応えられる業者が契約を競り落とすという仕組みになっています。
《オークションをどう活かすか?》
オークションを自社ビジネスに活かす上では、何よりもまず、イーベイやヤフーのような既存大手から顧客を奪い取れるような独自の提供価値をどのように実現するかを考える必要があります。参加者数を急速に増大させる方法や、取引の安全性・透明性を保証する方法をどうするかも課題になります。
上記の点が上手くクリアできれば、自社製品のオークション販売や、ニッチな需要に特化したオークションサイトなど、様々なビジネス展開が考えられるでしょう。
【モデル5. バーター(Barter)】
バーターという言葉は英語で「物々交換」を意味します。その名のとおり、このビジネスモデルは、金銭を介在させることなく、個人や組織の間で製品やサービスをやりとりするものです。主として自社商品のマーケティングの役割を持っているという点で、単なるスポンサーシップとは異なります。マジック・トライアングルで言えば、「何を売るのか(What?)」「なぜ儲かるのか(Why?)」の2点を変革するビジネスモデルということになります。
具体例としては、グーグル社が音声認識技術の向上のために電話番号案内サービスを無償提供しているケースや、製薬企業が治験協力と引き換えに医療機関に薬を無償提供するケースなどがあります。
ちなみに、芸能界では、人気タレントとそうでないタレントを抱き合わせで出演させることをバーターといいますが、それもこのビジネスモデルが語源となっています。
《このモデルの歴史と活用事例》
バーターのルーツは古代ローマにも見ることができますが、現代においては、1960年代以降にビジネスモデルとして定着してきたと言われています。
日本でもおなじみの、洗剤や化粧品など多くの消費財を扱う米国のP&G社は、バーターのビジネスモデルを活用してマーケティング上の成功を収めた先駆者として知られています。同社はラジオやテレビの番組スポンサーとなり、番組の提供と引き換えに、膨大な視聴者に対して自社製品の露出を高めることに成功しました。また、同社の主要ブランドの一つであるオムツの「パンパース」は、産科病棟での無償配布を通じて多くの顧客を取り込んでいった経緯があります。
ドイツのルフトハンザ航空が採用したバーター戦略も興味深いものです。同社はニューヨークに広大な小売スペースを所有していましたが、自社では利用法を見出せず、コストの回収ができないまま持て余していました。そこで同社は、この空室の不動産をテレビ局や石油会社に無償で貸し出し、その対価としてテレビの広告枠や燃料を得ることにしたのです。同社にとってこれは、普通に賃料をとって空室を貸し出すよりも大幅にメリットの大きい取引でした。
《バーターをどう活かすか?》
バーターを自社ビジネスに活かすにあたっては、自社製品を補完しうるサービスや製品を見つけ出せるかどうか、またパートナーとの協業によって自社ブランドにどのような波及効果があるかなどを考慮する必要があります。
バーターのビジネスモデルの面白い点は、協力相手の選択肢が非常に広いことです。仕入先や顧客はもちろん、競合他社さえもパートナーとして考えることができますし、自社のビジネスと類似点のない相手との組み合わせでも効果が期待できます。ガスマンらも、このビジネスモデルについては「常識にとらわれず考えてみることを推奨する」と述べています。