記事02「マジック・トライアングル」

記事02「マジック・トライアングル」

【マジック・トライアングル】

今回の記事では、引き続きオリヴァー・ガスマンらの著書「ビジネスモデル・ナビゲーター」を参照し、画期的なビジネスモデルを創出するための具体的な手法について述べていきます。

ガスマンらによれば、ビジネスモデルとはつまり、「誰が自社の顧客なのか(Who?)」、「何を売るのか(What?)」、「製品やサービスをどのように提供するか(How?)」、「なぜ自社ビジネスが儲かるのか(Why?)」の四つの軸を定義することだといいます。

そして、この四つの軸に基づいてビジネスモデルを考察するためのツールとしてガスマンらが考案したのが、「マジック・トライアングル」と呼ばれる三角形の図です。これは、全てのビジネスモデルの根幹である「Who?(顧客軸)」を三角形の中心に置き、三つの頂点にそれぞれ「What?(提供価値軸)」、「How?(提供手段軸)」、「Why?(収益モデル軸)」の三要素を配置して、ビジネスモデル全体をこれらの四つの軸で表現できるようにしたものです。彼らがこれを「マジック・トライアングル」と呼ぶわけは、三角形の頂点に配置された要素のどれかを変更しようとすると、自動的に他の二頂点の要素にも変更が必要になるという構造になっているためです。

「ビジネスモデル・ナビゲーター」では55種にも及ぶビジネスモデルのパターンが紹介されていますが、そのいずれも、マジック・トライアングルの四つの軸からどの部分を刷新したか?という観点で説明することができるのです。

 

【ビジネスモデル・イノベーションの手法】

ガスマンらの「マジック・トライアングル」の図を用いれば、ビジネスモデルの革新のために何をするべきかが見えてきます。ビジネスモデル・イノベーションにおいては、トライアングルに配置された「顧客軸」「価値提供軸」「提供手段軸」「収益モデル軸」の四つの軸の内、二つ以上の軸を刷新することを考えればよいのです。一つの軸だけを刷新する場合(例えば提供価値軸の刷新)は、結果的に製品のイノベーションということになり、ビジネスモデルのイノベーションにはなりません。

マジック・トライアングルの軸を刷新するとはどういうことか、ガスマンらが挙げている具体例を見てみましょう。

 

《コンピュータメーカー「デル」の事例》

パソコンに詳しい方なら、デル(Dell)社がカスタムメイドの直販に力を入れているメーカーであることをご存知かもしれません。多くのコンピュータメーカーは流通業者を介して製品を市場に流通させますが、デル社はこの部分を刷新し、カスタムメイド製品の直販による低価格提供を可能としました。マジック・トライアングルに当てはめれば、これは「製品やサービスをどのように提供するか(How?)」の刷新であると同時に、「何を売るのか(What?)」の刷新でもあるということになります。

さらに、顧客からの直接受注を通じて、実際の需要に関する貴重な情報を入手することが可能になり、在庫調整や調達網の管理の効率化にも繋がりました。この点も「How?」の刷新であるといえます。

カスタムメイドの直販という販売形態は、同時に、「アドオン」と呼ばれるビジネスモデルのパターンを活用して売上を向上させることにも直結しています。デル社のコンピュータを購入する顧客は、基本製品に自分の好きな部品を追加して(アドオン)、自分専用のコンピュータをカスタマイズする仕組みになっているのです。この点が「なぜ自社ビジネスが儲かるのか(Why?)」の刷新ということになります。

このように、デル社の場合は、「誰が自社の顧客なのか(Who?)」以外の三つの軸を全てイノベーションすることで、同業他社とは異なる価値の創造と収益化を実現するビジネスモデルを生み出したのです。

 

《エンジンメーカー「ロールス・ロイス」の事例》

英国の航空機用エンジンメーカーであるロールス・ロイス社(高級車のロールス・ロイス社とは兄弟のような関係)は、それまでのエンジン業界の常識を覆す「パワー・バイ・ジ・アワー(power by the hour)」というビジネスモデルを創出しました。これは、航空会社が航空機のエンジンを購入することなく、時間あたりの利用料を支払うことでエンジンを利用できるという仕組みです。飛行機の就航後もロールス・ロイス社がエンジンの所有権を保ち続け、メンテナンスや修理の責任も負い続けることになります。このアイデア一つをもって、「何を売るのか(What?)」、「製品やサービスをどのように提供するか(How?)」、そして「なぜ自社ビジネスが儲かるのか(Why?)」の三つの軸全てが刷新されています。

このビジネスモデルの導入により、同社は安定的な収入の確保に成功し、またサービス効率の向上に伴うコスト低減にも成功しました。顧客である航空会社にとっても、巨額の費用でエンジンを購入する必要がなく、また直接の利益を生み出さない機体整備の時間をロールス・ロイス社任せにできるということで、メリットの大きい契約体系だったのです。今日、パワー・バイ・ジ・アワーは、ゼネラル・モーターズ社やプラット・アンド・ホイットニー社など主要なエンジンメーカーが軒並み導入しているメジャーなビジネスモデルとなっています。

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