記事04「ビジネスモデル7つの誤解」

記事04「ビジネスモデル7つの誤解」

【万人に開かれた変革の道】

ガスマンらの著書「ビジネスモデル・ナビゲーター」では、ビジネスモデル・イノベーションは天才や大企業の特権ではなく、どのような規模・業態の会社であってもその担い手になることが可能であると繰り返し説かれています。しかし、この記事を読んでいる皆様の中には、「本当にそうだろうか?」「そうは言っても、やはり天才的ひらめきやリソースの差がものを言うのではないだろうか?」と疑問をお持ちの方も少なくないかもしれません。

そこで、今回は、イノベーションに関して世の中で信じられている「伝説」に対しての、ガスマンらの反駁を紹介し、ビジネスモデル・イノベーションへの道が万人に等しく開かれていることを明らかにします。

 

【イノベーションに関する7つの誤解】

ガスマンらは、以下に示す7つの「伝説」を例に挙げ、ビジネスモデルを革新するためには、これらの誤解を克服する必要があると述べています。

 

《初登頂伝説》

新たなビジネスモデルを生み出すためには、今までに誰も思いつかなかったような斬新なアイデアが必要であるという誤解があります。しかし、前回の具体例で見たように、実際のビジネスモデル・イノベーションは、古くからあるモデルや、既に他の業界で効果が実証されているアイデアの「借りもの」であることが多いのです。

 

《「大きく考えよ」伝説》

ビジネスモデル・イノベーションという言葉からは、それ一つで一気に世界を変えてしまうような巨大な変革が連想されがちです。しかし、製品のイノベーションと同じく、ビジネスモデルのイノベーションもまた、小さなことから段階的に進めていくことができます。

ネットフリックス社は、今日、動画配信サービスで成功を収めていますが、はじめに導入したのはDVDを顧客に郵送するという小さなビジネスモデル・イノベーションでした。その小さな転換で同社が収めた成功が、その後のオンライン動画配信へと繋がる礎となっているのです。

 

《技術革新伝説》

新たなビジネスモデルの創出は、新たな製品を生み出せるような技術革新に基づくものだという誤解も根強くあります。確かに、新技術の登場が、ビジネスモデル・イノベーションの大きな切っ掛けとなりうることは間違いありません。しかし、重要なのは新技術そのものではなく、それを自社のビジネスに上手く適用し、ビジネスモデルを変革するアイデアの方です。いうなれば、万人が利用できる新技術に対し、いかに独自の活用法を編み出して差別化を図れるかという点が、競合他社との勝負を決める要素なのです。

また、ガスマンらは、「技術のための技術開発」はイノベーションのプロジェクトにおける最大の失敗要因であるとも述べています。新技術の経済的な有用性を目に見える形で示すことこそ、真の革新なのです。

 

《幸運伝説》

いかなる企業でもビジネスモデル・イノベーションを実現することができるというのがガスマンらの主張ですが、それに懐疑的な人々の中には、イノベーションの成否は純粋に運不運によって決まるものだと信じてやまない人もいます。しかし、ビジネスモデルの創出には、単なる幸運だけではなく、周到な計画と準備、そして多大な労力が必要不可欠です。系統立った工夫と努力の先にこそ、イノベーションは見えてくるのです。

 

《アインシュタイン伝説》

ビジネスモデル・イノベーションを引き起こすことができるのは、革新的なアイデアをひらめくことができる一握りの天才だけだという誤解です。ガスマンらがこれを明確に否定していることは、ここまでの記事でも繰り返し述べてきました。

今日におけるイノベーションは、一人の天才の手によるものではなく、社内部門やグループ企業間をまたいだ横断チームによって推進されるのが当然となっています。ガスマンらはこのことを「今やイノベーションは個人の成果でなく、チーム競技に変わったのだ」と説明しています。適切な協業体制が敷かれていなければ、一個人が優れたアイデアを閃いたとしても、アイデアのままで先に進むことはできません。

イノベーションの天才であったスティーブ・ジョブズでさえ、自らiPodを考え出したわけではありません。外部のエンジニアやデザイン会社などからなる混成チームの連携によってiPodは生み出されたのです。

 

《大規模伝説》

大きなブレイクスルーには、それに見合うだけの大きなリソースが必要とされるという誤解があります。しかし、実際には、世界で起こっている主要なビジネスモデル・イノベーションは、小さなスタートアップ企業が担っているケースが多いのです。

WEBサービスの分野はその顕著な例です。全世界で最もアクセスされている上位3つのWEBサイト、即ちGoogleとFacebookとYouTubeは、それぞれの創業者が個人レベルで始めた事業に端を発しています。過剰なほどのリソースを有する成熟企業は、むしろブレイクスルーを成し遂げることはできないと述べている起業家もいるほどです。

 

《研究開発伝説》

先の「技術革新伝説」とも重なりますが、重要なイノベーションは、研究開発部門を出処として生み出されるという誤解も広く信じられているようです。しかし、現代におけるビジネスモデル・イノベーションは、複数の部門を横断するプロジェクトチームによって生み出されるのは既に述べたとおりです。技術はイノベーションの主要な要素の一つには違いありませんが、ビジネスモデルと組み合わせることで技術は初めて用をなすのです。したがって、研究開発部門のみならず、社内の全ての部門がイノベーションでは重要性を持つことになります。

 

以上、7つの「伝説」を見てきましたが、本書「ビジネスモデル・ナビゲーター」に込められたガスマンらの狙いは、これらの誤解を正すことにほかなりません。

次回以降の記事では、彼らが提唱する55パターンのビジネスモデルの例を検討し、ビジネスモデル・イノベーションのシステマチックな実践について考えていきましょう。

 

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