記事05「アドオン」

記事05「アドオン」

【55のパターンへの導入】

今回からはいよいよ、オリヴァー・ガスマンらの著書「ビジネスモデル・ナビゲーター」で紹介されている55種類のビジネスモデルの勝ちパターンを見ていきましょう。

繰り返しになりますが、ビジネスモデル・イノベーションは、天才や大企業に限らず、いかなる性質や規模の事業体にも実施可能な営みであるというのがガスマンらの主張です。55のパターンを参照する際には、ぜひ、ご自身の会社のビジネスや、これから始めようとお考えのビジネスにはどのように活用することができるかという視点でご覧下さい。

 

【モデル1. アドオン(Add-on)】

はじめに登場する勝ちパターンは、以前にコンピュータメーカーのデル社の事例でも紹介した「アドオン(Add-on)」です。このビジネスモデルは、サービスや製品の本体部分を安価で提供しつつ、有料の追加オプションで最終的な価格を高めるというものです。「マジック・トライアングル」でいえば、「何を売るのか(What?)」と「なぜ儲かるのか(Why?)」の二つを変革するモデルということになります。

このモデルを採用するメリットは、本体部分の安価さで顧客を呼び込みつつ、様々なオプションで結果的に高い利益を挙げられることです。特に、様々な製品やサービスの価格がオンラインサービスで簡単に比較されるようになった現在においては、本体部分が安価であればあるほど、横並びの比較において有利になり、多くの顧客の注目を集められるようになります。

また、顧客からみたこのモデルのメリットは、本体部分のみを安価で利用するか、それともアドオンのオプションを購入するか、そしてどのようなオプションをどのグレードで追加するか……といった選択肢の幅広さにあります。コンピュータや自家用車のように、顧客の好みや需要が幅広く分散している分野においては特にメリットが大きいモデルといえます。

 

《このモデルの歴史》

アドオンというビジネスモデルの具体的な発祥は明らかではありませんが、サービス業において、特別なオプションや追加機能を高価格で提供することは古くから行われていました。また、工業化に伴い、高い互換性や拡張性を有する製品モデルのデザイン(=モジュール化)が容易になったことも、アドオンのビジネスモデルの隆盛に一役買ったといえます。

シンプルな例としては、ホテルの個室に備え付けられた冷蔵庫がわかりやすいでしょう。その中の飲み物には、外で買う場合よりかなり高い価格が設定されています。ホテルの宿泊料金が「サービスの本体部分」にあたり、外部より高価な冷蔵庫の飲み物が「アドオンのオプション」にあたります。

同様の手法は旅行業界でも広く用いられています。ツアーの基本料金(交通手段と宿泊料金がパッケージ化されたもの)が安価に設定され、それに上乗せする形で様々な有料オプションが用意されているという構造はどこの旅行会社にも見られるものです。「○○国7泊8日ツアーがたったの20万円! そしてオプションで××地方日帰りバスツアーが追加3万円」などといった旅行プランは日本でも馴染み深いものでしょう。

 

《このモデルの活用事例》

ガスマンらは、格安航空会社や自動車業界の例を挙げ、「アドオン」のビジネスモデルの活用範囲の広さを示しています。欧州最大の航空会社の一つとして知られるアイルランドのライアンエアー社は、基本運賃を格安に設定するかわりに、乗客へのサービスや飲食、旅行保険、優先搭乗、荷物の追加など、実に多くの要素を有料オプションとすることで、顧客に自由な選択肢を提供しました。また、メルセデス・ベンツやBMWといった高級車メーカーでは、ハイステータスな顧客の心理を刺激する贅沢なオプションを幅広く用意し、高い利益を上げています。

日本の企業でもこのモデルで成功を収めた例があります。ゲームメーカーのセガは、業界で初めてアドオンのビジネスモデルを採用し、ゲームソフトにDLC(ダウンロードコンテンツ)と呼ばれる有料の追加機能を組み込みました。同社にとっては、ゲームソフトの販売のみならずDLCのオプション料金でも利益を上げることが可能になり、また顧客にとっては、購入したゲームに好みのオプションを追加できるというメリットが得られるようになったのです。今日、DLCはゲーム業界において一般的なビジネスモデルの一つとなっており、任天堂やソニーなどの国内メーカーのみならず、日本国外のメーカーでも当たり前に用いられています。

 

《アドオンをどう活かすか?》

アドオンというビジネスモデルの肝は、顧客がまず価格などの合理的な基準に基づいて本体製品を選択し、その後で感情的な基準に基づいて(価格のことはあまり気にせず)オプションを購入するという二段構えの構造にあります。ガスマンらによると、最新の消費者行動調査では、特に消費財に関してこうした傾向があることが明らかになっているとのことです。

アドオンのモデルを自身のビジネスに活かすなら、「本体をお値打ち価格で先に提供し、後から追加オプションを提供する」という売り方が可能かどうかをまず考えてみる必要があります。また、その際に忘れてはならないのは、追加オプションを必ず他社ではなく自社から購入してくれるよう、顧客を囲い込む仕組みを作ることです。

 

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